
Amazon Prime Videoで鑑賞。
Youtubeで予告を見た時から気になってた映画。
ストーリー
破滅への転落と“今そこにある“恐怖を描くサスペンス・エンターテインメント
市役所の生活福祉課に務める佐々木は、ある日「同僚が生活保護受給者のシングルマザーに肉体関係を迫っているらしい」という相談を受け、真相を確かめようと彼女のもとを尋ねる。
その出会いが“地獄”の始まりだとも知らず……
映画情報
公開日:2025年3月20日 (日本)
上映時間:114分(PG12)
監督:城定秀夫(『愛なのに』『95』など)
脚本:向井康介(『ある男』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞)
原作:染井為人の同名小説(第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞)
ジャンル:サスペンス
キャスト
北村匠海(佐々木守:市役所勤務の真面目な公務員、闇に堕ちる主人公)
河合優実(林野愛美:育児放棄寸前のシングルマザー)
伊藤万理華(宮田有子:正義感の強い同僚)
毎熊克哉(高野洋司:性的不正関与が疑われる先輩公務員)
窪田正孝(裏社会の住人・金本龍也:最も予測不能な“ワル”)
木南晴夏(古川佳澄:夫に先立たれ、生活に困窮しているシングルマザー)
予告編はこんな感じ
感想
原作は未読。予告編を見る限りだと佐々木(北村匠海)が金本(窪田正孝)に早々に騙されてしまい、どう解決すんの?一発逆転か?さぁどうする!?みたいな感じでサクッと佐々木が騙されて長いこと利用された挙句に逆襲するのかな。なんて思っていました。
ところがどっこい。
佐々木が騙される(=闇落ち)までが長ぇ。
その展開がとても良かった。映画を見ながら「これどう終わるの?」と思ったのは久しぶり。いや、初めてかもしれない。「いつ騙されるの?」「“二度と抜けらんねぇからな、お前”っていつ出てくるの?」と、残り時間を気にしながら観ていた。
展開がジェットコースター。
前半はじわじわと佐々木が闇に引き込まれていく過程を描いていて、それを知っているだけに、愛美や(特に)美空との距離が近づいていく様子が、まるで幸せという名のジェットコースターの頂点に向かっているようだった。
終盤、佐々木の心の糸が切れたあとの“ドタバタ劇”は、まさにジェットコースターで一気に落下し、その勢いで右へ左へ振られ、一回転まであるような怒涛の展開。
ここは笑いどころ(※宇多丸さんのラジオ「アフター6ジャンクション2」リスナー評)らしいけれど、自分は笑えなかった。隣の部屋に子どもいるよね!?と心配が勝ってしまった。その後、金本が“合理的な答え”を出す展開も印象的。
佐々木守(北村匠海)について
生活福祉課の公務員。真面目すぎて空気が読めず、余計な一言を言ってしまうタイプ。
林野家を訪れた際、美空に親しく接することで、愛美との距離も縮まっていく。高野とは異なり、美空に特に距離が近く感じられたので「ロリコンか?」と疑ってしまったが、後に刑事に古川の子どもについて尋ねられた時の態度などから、彼が子どもを思いやる人間であることがわかった。
子どもにばかり目がいってしまうのは、ケースワーカーとして多くの“犠牲者”を見てきたからかもしれない。
ロリコンだと思ってすいませんでした。
林野愛美(河合優実)について
「誕生日を祝ってもらったことがない」と話したシーンから、複雑な家庭環境がうかがえる。終始ムスッとしていて、感情表現が乏しい。
佐々木をハメるはずなんだけど、一緒に公園に行ったり、ファミレスに行ったりして『どうよ、楽しいでしょ?好きになったんじゃないの?』さっさと思いを伝えちゃえよ・・・ん?こいつ全然表情から読めねぇ。って感じの演技がよかった。
小型カメラをずらして事に及ぶシーンで愛美の気持ちが明確になった。結局金本の命令には逆らえず佐々木を嵌めることに。その後の佐々木との関係もバツが悪そうにする感じも何考えてるのかわからなくてよかった。最終的にはくっつくんだけれども。
宮田有子(伊藤万理華)と古川佳澄(木南晴夏)について
何か気になった二人。
伊藤万理華さん演じる宮田は佐々木の同僚で高野失踪後に執拗に高野の行方を調査。なぜそんなに執着するのかと思えば、潔白さが武器だからと言う。“ド真面目キャラ”と思いきや、潔白さもある種の武器であり、意外な一面を見せる。メガネ姿が印象的で「誰だろう?」と思うくらい美しかった。
木南晴夏さん演じる古川佳澄は、夫に先立たれたシングルマザーで、幸薄そうな雰囲気と、やつれていく演技が素晴らしかった。初登場の車に水をかけられるシーンはまだ精気があったのに、以降どんどん消耗していく。声のトーンの変化などもリアルで、印象に残った。
子どもたちについて
とにかく良い子たち。
美空は佐々木が闇落ちしても「おかえりなさい」と言い、料理の手伝いも文句ひとつ言わず健気。古川の子どもも、水をかけられても笑って受け流し、公園で母に「大丈夫?」と声をかける。(この「大丈夫?」がきつかった。少し離れて特別金持ちってわけではない一般家庭の周囲の視線もきついし、水汲んでるってことは水道も止まってる…そんな中、暑さにも耐えながら絞り出すように言う「大丈夫」が胸に刺さった。『大丈夫なわけあるかー!』と言いたくなった。)
公園で遊んでいた子のほうがわがまま言いそうなのに、この子たちは子どもらしさを捨てて親を困らせまいとしている。
もっと泣いても、わがまま言ってもええんやで。
っていうか高野はホントに役所にいるときからろくでもないし、金本の悪い奴なんだけれど、どこか憎めないところだったり、吉田の子分感や莉華のおめぇが強いわけじゃねぇんだからなって感じのキャラ全員が良かった。
映像・演出 題名の通りジメっとした夏
城定秀夫監督による蒸し暑くじめじめしたビジュアル。シャツが張り付くほどの汗もそうだし肌を伝う汗や陽炎が酷暑を感じさせて、悪い夏って感じ。なんで3月公開なんよ!8月公開だろこんなもん!
汗まみれでシャツが肌に張り付き、陽炎が立つような暑苦しさ。8月公開だったら、観客が熱中症になったかもしれん。それくらい映像は濃く、重く、暑い。
好きなシーン
美空が少しずつきれいになっていくのが印象的。髪をまとめたり、髪質が良くなっていたり。娘を持つ身としては、こういう変化に自然と目が行ってしまう。
ちょくちょくシーンに出ては、佐々木とも金本とも交わりそうで交わらないキャラでおなじみ古川佳澄。そんな古川がやっと佐々木と接触したところで佐々木の怒りが爆発し、カメラがぐっと寄るあの場面。その後の佐々木が完全に闇落ちする瞬間はやっぱり良い。
でも古川のタイミングの悪さがかわいそうすぎる……(佐々木がキレる理由、別の人でも良かったのに)。
嫌いなシーン
終盤、主要キャラが一堂に会する場面。金本がさっさと片を付ければいいのに、と思った。特に宮田は、金本に背中を向けたまま高野に向かって突進するけど、「誰なんだよ!」じゃなくて、普通そこは金本が即座に黙らせるだろ……と思った。
(ねぇ? 上林さん(©孤狼の血))
……とはいえ、金本に意外な“優しさ”があったのは良かった。
最後に
映画『悪い夏』を観終えて、まず最初に思ったのは、暴力や緊張感が全編を包んでいるのに、最後まで人が死なないストーリー展開に、正直ちょっと驚きました。
近年の映画では、シリアスなテーマや裏社会が描かれると、どうしても“誰かが死ぬ”ことで物語に重みを与えるパターンが多い気がする。でも『悪い夏』は違った。
緊迫した人間関係や不穏な空気を終始描きながらも、安易に“死”を物語のカタルシスに使わない。でも、誰がいつ死んでもおかしくないような、ギリギリのラインを見せられているような気がして、作品としての強さを感じました。
「死」がごまかしの道具にならないからこそ、かえって彼らの選択がリアルに感じられました。
“人が死なないサスペンス”というか“生きることに執着するサスペンス”という、とても難しいバランスを成立させていると思います。
もちろん、映像や演出、役者の演技も素晴らしかったんだけど、私が一番印象に残ったのは、やっぱり「誰も死ななかった」という一点に尽る。映画の終わりも主役級のその後だけでなく、主要キャストのその後が映し出されていたのが印象的で、静かだけど、ずっしりと響く。そんな映画でした。